ベンダーロックインとは?ベンダーロックインの問題点や解決方法を解説
現在、行政から企業まで、業界を問わずDX化が進められています。
しかし、DX化には多くの障壁があり、順調に進まないことも多いです。
DX化を阻む原因として問題視されているものに、
特定企業の製品・技術に依存することで発生する「ベンダーロックイン」
というものがあります。
ベンダーロックインは、企業のDX化を妨げるだけでなく、改修の困難さや運用コストの増大、セキュリティリスクなど、さまざまな問題を持っています。
この記事では、ベンダーロックインがどのようなものか、その問題点と解決方法を解説します。
ベンダーロックインとは
ベンダーロックインとは、どのような状態を指すのでしょうか。
ここでは、ベンダーロックインの意味と内容、そして発生原因について解説します。
特定の製品に依存した状態
ベンダーロックイン(vendor lock-in)とは、特定の企業の製品・技術に強く依存したシステムを構築したことで、他社製品への乗り換えが困難になった状態を指します。
社内システムの中核に、こうした製品を導入すると、周辺システムまでを同じ企業の製品で揃えなければならず、改修や乗り換えの際に選択肢が非常に限られます。
導入の際には、
「経理システムだけではなく、人事システムも同じ会社の製品を入れることで、連携がスムーズになる」
などの理由から、同じ会社の製品を入れる事がよくありますが、反対に
「人事システムだけを変えたいけど、経理システムも変えざるを得ない」
となり、置き換えの際に多額の費用が発生する可能性があるのです。
この状況は技術的な問題だけではなく、システム導入後に相手企業が利用料を上げても、それに従わざるをえないという問題もあります。
結果として運用コストが増大し、市場競争や技術の進歩についていけない事態に陥ります。
近年ベンダーロックインは、DX化の大きな障壁としても問題となっています。
ベンダーロックインは、その状態から「コーポレートロックイン」と「テクノロジーロックイン」に分けられます。
自社がどちらの状況に置かれているのかを見極めることが、この問題から脱出するポイントとなります。
コーポレートロックイン
コーポレートロックインとは、情報システムが特定の企業に依存している状態を指します。
社内システムの開発・整備を外部企業へ依頼した場合、仕様を理解しているのはベンダーのみとなり、必然的に依存することになります。
コーポレートロックインからの脱却をする際は、自社の事業や要望から、現在の社内システムの仕様などを、別の企業に一から理解してもらう手間がかかります。
実際、私が見てきた大手企業でも、
「この部分の運用は全てA社に依頼しているから、そこに仕様を聞いてもらわないとわからない」
という業務が多数存在しました。
このときにかかるコストが膨大なため、結局は元の企業に頼らなければならず、さらに深刻なコーポレートロックインに陥ってしまうのです。
テクノロジーロックイン
テクノロジーロックインは、情報システムが特定の技術に依存している状態です。
こちらはベンダーではなく、システムの仕様が足枷となる状況を指します。
例としては、とある企業が開発したアプリケーションが特定のデバイスでしか動作しない仕様となっており、他のアプリケーションへ移行できない状態は、テクノロジーロックインと呼ばれます。
最近では、他社のクラウドへ移行する際に、もともと使用していたサービスの仕様が障壁となって、データ移行が進まないという事例も増えています。
テクノロジーロックインは、古いシステムを使い続けることになり、コストの増大やセキュリティリスクなどの問題が発生しがちです。
ちなみに、現在はAWSやGoogle Cloud Platformなどのクラウドサービスを利用する企業が増加しましたが、これもベンダーロックインの一形態で、近年問題視されていることもあり「クラウドロックイン」と呼ばれることもあります。
仮に、AWSで構築したシステムを、GCPに置き換えるとなると、かなりの工数やテストが必要になりますし、
「そもそも同じ運用は出来ない」
ということもあるのです。
ベンダーロックインが発生する原因
ベンダーロックインが発生する原因はさまざまですが、ここでは、よくある原因を紹介します。
まずコーポレートロックインの主な原因としては、実際にシステムを運用するはずの自社が、資料やスキルを持っておらず、仕様を把握できていないことが挙げられます。
ユーザーがシステムの仕様を理解しておく、あるいは必要な資料を所持していることで、別の企業への乗り換えコストはずっと低くなります。
また、定期的に新しい言語への移行をしなければ、
「レガシーシステムを作れる企業が少なく、コーポレートロックインになってしまう危険性」
が増します。
次にテクノロジーロックインの原因は、その企業独自の技術や設計思想を用いたシステムを導入することにあります。
言いかえると、システムや製品の汎用性を重視しないと、テクノロジーロックインに陥るのです。
アプリケーションからデバイスまでがセットになったサービスを導入すると、導入時のコストは抑えられますが、結果としてその環境に依存せざるを得ない状況になります。
ベンダーロックインの問題点
システムを他企業に依存することで、どのような問題が発生するのでしょうか。
ここでは、ベンダーロックインの問題点について解説します。
改修交渉が難航する
ベンダーロックインに陥ることで、企業は優位な交渉が難しくなります。
特定の製品・技術に深刻に依存した環境は、それを開発した企業でなければ仕様を理解することが困難です。
そのため、運用・保守や改修を担当できるベンダーが他におらず、元の企業に依頼せざるをえません。
競合企業が不在の状態となるので、改修費用は高額となり、導入企業には交渉の余地がないのです。
本来なら、他社と相見積もりを取って改修を行うべきところが、出来ないので極論「相手の言い値」での取引にならざるを得ないのです。
仮に相手から不誠実な対応をされ、社内でも多くの不満が上がったとしても、それを受け入れるしかありません。
しかし、すべてのシステムを他社へ移行するとなると、さらに高いコストがかかるうえに、移行が完了するまで企業活動が停止する事態にも陥ってしまいます。
運用コストが高くなる
特定の企業に運用・保守を依存している場合、改修コストだけでなく、日々の運用コストも高くなってしまいます。
他に選択肢のない状態であるため、たとえ依頼先が利用費を値上げしたとしても、他社製品へ移行するまでは、それを受け入れなければなりません。
また長年使用しているシステムには、開発企業の倒産やサポート終了によって、運用・保守が不可能となるリスクもあります。
結果として他社システムにすべて乗り換える必要が生じ、費用的にも時間的にも、多大なコストを支払うことになります。
セキュリティリスク
発表から長い年月を経たものを「レガシーシステム」と呼びますが、こうした環境は脆弱性などのセキュリティリスクを抱えていることが多いです。
さまざまなサイバー攻撃が発生する現代において、企業は一定レベルのセキュリティ対策をおこなう義務を負います。
レガシーシステムを使い続けることは、企業のコンプライアンスに関わる問題です。
しかしベンダーロックインに陥っている場合、システムの移行が困難であるため、レガシーシステムを使い続けなければならない状態に陥ります。
DX化の妨げになる
ベンダーロックインが強く問題視される背景には、それがDX化を阻む大きな要因であるという理由があります。
一例を挙げると、公正取引委員会の調査から、官公庁の98%がベンダーロックインに陥っているため、行政のDX化が阻まれていると指摘されています。
この状況は企業にも当てはまり、DX化を実現するためのさまざまなシステムを導入しようにも、同じような状況によって乗り換えが困難であることが多いです。
DX化実現のためにはベンダーロックインからの脱出が不可欠ですが、それには長い時間とコストが必要となります。
経営上のリスクがある
仮に、ベンダーロックインの状態で仕事を続けていると、
「何かしらの問題が発生した際」
に、大きな影響を受ける可能性があります。
例えばコーポレートロックインの状態で、依頼先の企業が倒産してしまう。
そうなると、一からシステムを他社に依頼する必要があります。
こういった変化に対応しにくいのがベンダーロックインであり、急にシステムが使えなくなると、経営が傾く危険性もあるでしょう。
ベンダーロックインを解決するポイント
ベンダーロックインからは、どのように脱出すればよいのでしょうか。
ここでは、この状況を解決するポイントをいくつか紹介します。
システムの現状を把握する
まずは、自社のシステムがどのような状況に置かれているのかを把握することが大切です。
ベンダーロックインが深刻な状態となっていても、当事者は無自覚であることが多いです。
まずはベンダーロックインの問題点を理解した上で、自社の環境を整理し、新たな製品を導入する際には、独自仕様などに気を付ける姿勢を心がけましょう。
ドキュメントを整備する
コーポレートロックインの問題点は、導入した企業にシステム関連の資料がないため、誰も仕様を把握していないことです。
そのため別の企業に乗り換えようとしても、仕様を一から調べてもらう必要が生じ、移行が難しくなります。
企業からシステムを導入したら、仕様書・設計書から、メンテナンス方法や利用方針などをまとめたドキュメントを整備することが重要です。
新規に依頼する企業であってもドキュメントを渡せば問題ないという状態が理想です。
優秀な人材を確保する
ベンダーロックインを解決するためには、さまざまな人材を確保することが重要です。
システムの運用・保守を担当できる人材が社内にいるだけでも、特定企業への依存度は下がります。
実際にベンダーロックインからの脱却を目指して、別の環境へ移行する際には、新たな企業に自社の現状と課題を理解してもらい、適切な環境を整備するために、自社と相手企業との橋渡しを担う人材が必要です。
専任の担当者を社内に配備することで、一貫した方針を持って、ベンダーロックインの解決を目指します。
外部リソースの活用
ベンダーロックインの状況は深刻であり、自力での脱出が困難であることがあります。
その場合は、コンサルティングなどの外部リソースを活用することも大切です。
現在はオーナーズコンサルティングという職業があり、現状の把握から今後の方針、新規ベンダーの選定などを担当することで、ベンダーロックインからの脱却をサポートします。
また、解消後の環境で業務を進める上では、PMOなどが力になるでしょう。
外部リソースをうまく活用することは、ベンダーロックインを解決して円滑な企業活動をおこなう上で重要なポイントです。
最適なシステム運用相談は、AMELAに
今回は、企業のシステム運用で重要なベンダーロックインについて見てきました。
長年システム運用をしている企業ほど、こういった状況に陥る可能性は高く、きちんとした対策が必要です。
特に、IT人材が不足している企業ほど、システムを外注する機会が多くなり、ベンダーロックインの可能性も高くなります。
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