MES(製造実行システム)とは何か?11の機能と導入メリット・事例解説
「モノづくりの日本」と謳われるほど、これまでの日本の製造業は世界を席巻してきました。
しかし、デジタル化の遅れや少子高齢化などの社会問題を抱える日本は国際競争に敗れ、今や製造業は中国が台頭するなど、モノづくり大国としての日本は危機に瀕しています。
また、米国などはIoTの技術などを駆使することで、様々な業種、業態の競争ルールに革新的な変化を促そうとしています。
製造業においても同様に、競争ルールが変化することで、日本のこれまでの強みが無価値なものとなってしまう可能性があります。
このような経済的な危機を乗り越えるためには、早急なデジタル化を進めて企業の競争力を取り戻す必要があります。
そこで今回の記事ではMESについてを取り上げます。
MESとは何か、何ができるのかを解説し、MESを導入することによるメリットについてを紹介していきたいと思います。
MES(製造実行システム)とは
まず始めに、MESとは何かについて解説をしていきます。
MESとは、「Manufacturing Execution System」の略で、製造実行システムのことをいいます。
生産現場において、MESは工程管理という役割を持ちます。
工場内の各製造工程を連携させ、各工程の進捗やスケジュールを管理することで、効率的に製造することを目的としています。
MESを活用することで、生産現場での製造工程の可視化と最適化を目指すことが期待出来るのです。
MESが求められる背景
MESが注目されている理由は、日本の製造業の競争力を取り戻す起爆剤になると期待されているからです。
日本の製造業はトヨタをはじめとした自動車産業や、工作機械などが特に強みです。
しかし冒頭にも述べたように、日本の製造業は衰退していると考えられます。
例えば、これまで日本の強みであった半導体産業については、今や台湾に製造の約9割を依存する状況となっています。
なぜ日本の製造業は昔に比べ弱くなってしまったのでしょうか。
その理由は、『少子高齢化に伴う人手不足』と『デジタル化の遅れ』と考えられます。
これまで製造現場における製造方法については、マニュアルなどによって確率されたものは少なく、熟練の技術者のノウハウによる運用で成り立っているケースが主流でした。
しかし、そこへ熟練技術者たちの高齢化が進み、第一線からのリタイアが始まります。
熟練技術者たちはそのノウハウを後世に伝えようとしますが、追い打ちをかけるように少子化による人手不足の影響を受け、働き手が見つからないという事態に陥ります。
その結果技術の継承が滞ってしまい、競争力が落ちる原因となりました。
また、デジタル化の遅れについても競争力低下の一因です。
世界では「スマート工場」と呼ばれる最先端の技術を駆使した工場運営の取り組みが進められています。
スマート工場とは、工場での製造工程にAIやIoTなどの技術を活用し、各製造工程間をネットワーク接続による情報統制をおこなうことで、工場運営の最適化を図る体制のことをいいます。
欧米をはじめとした各国では我先にとスマート工場への取り組みを進める中、日本はこの取り組みに出遅れてしまった結果、現状があると考えられます。
このような状況下において、最近ではDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みなども相まって、MESの重要性が高まっています。
MESとERP
MESのほか、生産管理に利用されるシステムにはERPがあります。
ここではMESとERP、それぞれのシステムの違いについて解説をします。
MESとERPの大きな違いは、現場向けのシステムなのか、経営層向けのシステムなのかという点です。
ERPは統合基幹業務システムのため、製造に関わる項目だけでなく、会社経営全般に関わるデータが蓄積されています。
例えば生産計画をはじめ、
・販売計画
・原価管理
・受発注管理
・在庫管理
・購買管理
など、製造工程以外の業務プロセスに関連するデータを多岐に渡って保持しています。
一方でMESの場合は、生産工程や製造工程の連携をすることで業務プロセスの可視化や効率化をおこない、高い品質管理を担保するためのシステムになります。
例えば、
「受注状況や在庫状況などのデータ」
と
「現状の生産ラインの製造状況」
を連携すれば、より正確な納期管理や、製造計画を作ることが出来ます。
他にも、製品に不備が見つかった時に、MESを使っていれば、その材料の仕入先などの情報を連携し、
「同じ仕入先からの直近の仕入れ材料を使用した製品を止める」
などの対応が可能です。
つまり、ERPは計画や管理という観点から経営層寄り、MESは製造工程の効率化という観点から現場寄りのシステムという扱いになります。
会社全体の生産計画(ERP)の中に製造工程の管理(MES)も包含されていることになりますので、以上の理由からERPはMESの上位システムという位置付けになっています。
MESの機能紹介
MESには様々な機能が備わっています。
MESについては、アメリカにMESAと呼ばれるMES推進団体が存在しています。
このMES推進団体では、MESの機能を11種類に分類できると提言しています。
ここではそれぞれの機能とその内容について解説をしていきます。
1つ目の機能は『生産資源の配分、および監視』です。
生産資源に関する情報の把握や管理をする機能です。
ここでいう生産資源とは、生産装置や工具、資材だけではなく、人の能力やスキルなど、生産活動をするにあたって必要な資源全般を指します。
次に紹介する機能は『文書管理』です。
作業に必要となる各種仕様書の作成や保管をする機能です。
ここでいう仕様書とは、作業の指示書や手順書、図面や設計図などを指します。
3つ目は『保守・保全管理』機能です。
各種設備のメンテナンスをおこなう機能です。
メンテナンスを適宜おこなうことで常に稼働できる状態を目指します。
これにより動作不良などの防止効果が期待できます。
4つ目は『品質管理』機能です。
品質が担保されているのかを測定、分析する機能です。
適正な品質管理をおこなうために役立つ機能です。
5つ目の機能は『作業のスケジューリング』です。
ERPなどで立案した生産計画に基づき、計画達成のためのスケジュール管理や最適な人員配置をおこないます。
6つ目の機能は『製造指示』です。
作業担当者に対して製造工程の指示や、各種情報の共有をおこなう機能です。
7つ目は『作業者管理』機能です。
言葉の通り作業者の業務状況を把握し、スケジュール管理や最適な業務割り当てをおこなう機能です。
8つ目の機能は『データ収集』です。
各製造工程の進捗状況を収集し、現状についての分析をする機能です。
9つ目の機能は『工程管理』です。
製造工程の状況を把握し、作業担当者のフォローや支援をおこないます。
10個目の機能は『製品の追跡と体系管理』です。
仕掛品の工程管理、および完成に至るまでの残工程の把握や管理をおこないます。
最後に紹介するのは『実績分析』機能です。
製造工程において収集した情報をもとに、生産状況や出荷予測時期などについて分析する機能です。
分析結果を踏まえ、作業工程における課題解決に活かすことが期待できます。
以上がMESの機能紹介になります。
MESを導入するにあたり、上述した機能を全て盛り込む必要はありません。
それぞれの工場ごとに活用方法を検討した上で、必要な機能だけを実装することができます。
MES導入のメリット
MESには様々な機能が備わっていることを解説しました。
では、MESを導入することで具体的にどのようなメリットがあるのかを解説します。
MESを導入するメリットは4つあります。
1つ目のメリットは、ノウハウや技術の蓄積と業務の標準化ができることです。
先にも述べましたが、MESにはデータの収集と分析機能があります。
これらの機能を用い、業務フローの可視化や技術の保存をすることにより、全ての担当者の業務クオリティを同水準まで高めることができます。
2つ目のメリットはヒューマンエラーの防止に繋がることです。
現場での多くのミスは、人によるものです。
操作ミス、勘違い、記憶違い、注意力散漫など、種類は様々ですが、ヒューマンエラーは多くの企業で課題となっています。
しかし、小さなミスが企業にとって致命的なダメージを負うリスクがあります。
MESにより作業担当者の負担をカバーすることで、ミスの未然防止に繋がります。
3つ目のメリットは人材不足の解消です。
MESによる適正な人員配置、および業務支援により一人一人の業務クオリティを高めることで、少ない人数でも舵取りができる体制を構築することができます。
MESの活用事例
では、実際にMESをどのように活用すればいいのでしょうか。
ここでは実際にMESを導入した企業を例に挙げ、現場での活用方法についてをご紹介したいと思います。
ここで紹介する企業とは、ある医薬品製造メーカーです。
医薬品製造工場での主な製造工程は以下の通りです。
1.原料の入荷
2.受入検査
3.原料の秤量
4.造粒(原料の大きさを一定にする)
5.打錠(粉末を錠剤の形にする)
6.印字・刻印(識別コードなど)
7.検査
8.包装
9.最終検査
10.出荷
これらの工程を行うにあたり、MESを導入する以前は、各工程において人力を伴う必要がありました。
例えば、
・原料を次工程に移行するための搬送作業
・目視による秤量チェックや印字/刻印が正しくなされているか
・手作業による医薬品の包装/封入
・梱包後の積み荷/出荷作業
など多岐に渡ります。
この医薬品製造メーカーはMESを導入したことで、
『各製造工程間の可視化』
『人とモノの動線の分離』
『製造工程の標準化』
『薬剤の取り違えや異物混入など、製造工程におけるリスクの防止』
『生産力の向上』
『過重労働の根絶』
など、数々の恩恵を享受することができています。
医薬品は人の命に直結するものであるため、高い品質管理と生産力の向上、ならびに安定的な市場への供給が求められます。
この企業はMESを導入したことで市場からの高い期待に応え、今も社会的責任を果たし続けているのです。
MES導入検討はAMELAに
今回は、MESについて説明してきました。
企業によって、必要となる機能や、必要になる製品が異なるため、現場担当者及び情報システム部門/経営幹部でも、適切なシステム導入と言うのは、非常に困難です。
本文中でも述べたように、MESの機能は11種類に分類され、その全てが必要とは限りません。
そのため、まずは御社の現在の状況を確認する上でも、AMELAに相談してみてはいかがでしょうか。
場合によっては、大型のMESを導入するよりも、まずは部分的なシステム導入を低単価で導入する・・・という方がリスクが低い場合もございますので、
「システム導入による費用対効果に不安がある」
「現場の人間が使用してくれるのか不安がある」
など、お気軽にご相談いただければと思います。