第三者割当増資とは?メリットやデメリット、実施までの流れなどを解説
会社を経営していくうえで、多くの場合資金調達が必要になるタイミングが出てきます。そして資金調達方法には多くの種類があり、それぞれ異なる特徴やメリット、デメリットがあります。
今回の記事では資金調達手段の一つとして、「第三者割当増資」について解説します。どのようなメリットやデメリットがあるのかなどを見ていきましょう。
第三者割当増資とは
第三者割当増資とは、資金調達手段の一つで、縁故者など特定の第三者に新株の購入権利を与えることです。特定の者に新株の購入権利を与えるという点では「株式割当増資」と似ていますが、第三者割当増資の場合は対象を既存株主に限定しません。
第三者割当増資の6つのメリット
第三者割当増資のメリットは、以下の6つです。
- 短期間で資金調達できる
- 事業の多角化や規模の拡大が期待できる
- 株式を付与する相手を決めた状態で実施できる
- 他社との関係性が強化される
- 返済義務がない
- 税金が課せられない
では、それぞれについて解説します。
1.短期間で資金調達できる
第三者割当増資は、会社に直接資金を投入できるため、短期間で資金調達できます。また、公募増資よりも手続きが簡単です。そのため、新規事業を展開したい場合などすぐに資金を調達したい場合に向いています。
2.事業の多角化や規模の拡大が期待できる
第三者割当増資をおこなうことで、新規事業の展開や事業規模の拡大がしやすくなります。なぜなら第三者割当増資によって資金の調達ができるだけではなく、資本金の増加によって企業の信用力も増すため、より新規事業のための資金調達がしやすくなるためです。また事業提携をする場合でも、資本力によって主導権を保持しながら交渉を進めやすくなります。
3.株式を付与する相手を決めた状態で実施できる
第三者割当増資では、株式の購入権利を付与する相手を決められるため、自社が望まないような相手(自社の経営に批判的だったり、将来競合となったりしそうな相手)が株主になる可能性を排除できます。したがって、より安心かつ安定した経営施策を展開しやすくなります。
4.他社との関係性が強化される
第三者割当増資によって、購入権利を付与した他社との関係が強化されます。なぜなら、自社の成長によって他社もメリットを享受できるためです。
例えば、自社の業績が成長することで株価が上がったり、配当金の金額が増えたりします。そのようなことを期待して、相手企業はより自社を拡大するために取引を増加させてくれます。このような好循環が生まれることによって、自社と他社のつながりはより強固になっていくのです。
5.返済義務がない
第三者割当増資で得た資金は、返済する必要がありません。そのため、返済をしなければならないというプレッシャーのもとに経営をすることになり、それによって焦って失敗をしてしまうようなリスクを避けられます。配当などにより株主への還元は必要ですが、借入金のように返済スケジュールがないため、より柔軟に資金調達できます。
6.税金が課せられない
第三者割当増資で調達した資金には、税金が課せられません。なぜなら、第三者割当増資は株式の譲渡や贈与をするわけではないためです。そのため、税金のことを気にせず資金調達ができます。
第三者割当増資の3つのデメリット
第三者割当増資のデメリットは、以下の3つです。
- 自社の持ち株比率が低下する
- 発行価格を決める際に既存株主の利益を侵害しないようにする必要がある
- 資本金が一定ラインを超えると増税される可能性がある
- 期限まで登記変更申請をしなければならない
では、それぞれについて解説します。
1.自社の持ち株比率が低下する
第三者割当増資は新たな株式を発行し、他の企業や投資家に購入してもらうことで資金を調達する方法であるため、実施すると自社の持ち株比率が低下します。もし持ち株比率が低しすぎると、議決権を他者に奪われてしまう可能性があります。もしそうなっては、自社の意思決定プロセスを他者に委ねることになり、思い通りに事業が上手くいかなくなってしまうかもしれません。
2.発行価格を決める際に既存株主の利益を侵害しないようにする必要がある
もし第三者割当増資による株式の発行価格を既存のものよりも安くしてしまうと、既存株主の利益を侵害してしまうことになります。そうなっては既存株主との関係が悪化してしまうため、第三者割当増資による株式の発行価格は既存のものよりも高く設定しましょう。
3.資本金が一定ラインを超えると増税される可能性がある
資本金は、1,000万円以上と1億円以上のラインを超えてしまうと、増税の対象となってしまう可能性があります。また中小企業である場合、優遇される税制が適用されなくなってしまいます。そのため、第三者割当増資によって資本金を増やす場合は、これらのラインを超えないように気をつけた方が良いでしょう。
4.期限まで登記変更申請をしなければならない
第三者割当増資をおこなった場合は、「払込日の翌日」から2週間以内に変更登記の申請をする必要があります。もし変更登記の申請をしないと、代表取締役に過料が課せられてしまったり、会社が休眠会社とみなされ強制的に解散させられてしまったりします。変更登記申請の期限は短いため、要注意です。
第三者割当増資を実施するまでの流れ
第三者割当増資を実施するまでの流れは、以下の8ステップです。
- 株主総会の招集
- 募集事項の決定
- 出資希望者への通知
- 引受けの書面交付
- 割当先と発行株式数の決定と申込者への通知
- 出資の履行
- 法務局への登記申請
- 株式名簿への記載
では、それぞれについて解説します。
1.株主総会の招集
まずは、株主総会の招集をおこないます。株主総会の招集は、株主名簿に記載されているすべての株主に対し、株主総会開催日の2週間前までに書面にておこないましょう。招集通知に記載する内容は、以下のとおりです。
- 開催日時
- 開催場所
- 議案の内容
もし株主が少数かつ、株主間で合意が取れていれば、メールでの連絡でも構いません。
2.募集事項の決定
株主総会までに、募集事項として以下の項目を決める必要があります。
- 募集株式の数
- 新しく発行する株式の数
- 募集株式の払込金額またはその算定方法
- 募集株式1株と引換えに払込を受ける金額または給付を受ける財産の価額
- 募集株式と引換えにする金銭の払込みの期日
- 現物出資の旨並びに当該財産の内容および価格
- 増加する資本および資本準備金に関する事項
3.出資希望者への通知
続いて、出資希望者に対して下記の項目を通知します。
- 株式会社の商号
- 募集事項
- 金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所
4.引受の書面回収
募集株式の引受希望者から、以下の内容を記載した書面を回収します。
- 申込みをする者の氏名または名称および住所
- 引き受けようとする募集株式の数
5.割当先と発行株式数の決定と申込者への通知
引受の申し込みを受けたら、取締役会または株主総会の特別決議にて、募集株式を割り当てる相手と発行株式数を決定します。続いて、引受希望者から回収した「募集株式申込証」をもとに、誰に何株を割り当てるか決めます。そこまで決まったら、申込者に対して通知をおこないましょう。
6.出資の履行
割当を受けた出資者は、定められた期日までに指定の方法で払込をおこないます。
7.法務局への登記申請
出資者からの払込を受けたら、払込期日から2週間以内に法務局にて増資の登記申請をおこないます。
8.株式名簿への記載
最後に、新たに株主となった出資者の名前や、各々の保有株式数を株式名簿に記載します。配当金の還元などは、この株式名簿の記載内容を根拠におこなわれます。
第三者割当増資による株価への影響
第三者割当増資をおこなうと、株価にプラスの影響が出る場合とマイナスの影響が出る場合があります。では、どのような場合にプラスやマイナスの影響が出るのでしょうか。
株価に与える影響がプラスになるケース
以下の場合には、第三者割当増資によって株価にプラスの影響が出ます。
- 新規事業立ち上げなどの事業成長が見込まれる場合
- 既存事業の成長によって発行会社の業績の改善が見込まれる場合
- 引受先とのシナジー効果が期待できる場合
- 上場廃止などマイナス懸念が排除された場合
事業が成長したり、業績が改善したりすれば、株価は上昇しやすいです。また引受先とのシナジー効果によっても、事業のさらなる成長が見込めるため、株価の上昇が期待できます。
株価に与える影響がマイナスになるケース
以下の場合には、第三者割当増資によって株価にマイナスの影響が出ます。
- 株式の希薄化により既存株主が株式を売却する場合
- 増資の目的がネガティブな印象を持つ場合
- M&A・事業承継の場合
株式が希薄化すると既存株主は株式の売却を検討し、さらに株主の買い手が集まりにくくなるため、株価は下落しやすいです。また増資の目的が借金の弁済などネガティブな場合も、世間からの支持を得にくく、会社の価値つまり株価が下がる可能性があります。
第三者割当増資時の株価の3つの算定方法
第三者割当増資時の株価の3つの算定方法は、以下の3種類があります。
- コスト・アプローチ
- マーケットアプローチ
- インカム・アプローチ
では、それぞれについて解説します。
コスト・アプローチ
コスト・アプローチとは、企業の純資産をもとに株価を算出する方法です。コスト・アプローチのメリットは、評価基準が明確なことです。その一方で、将来の収益や無形財産の価値などが評価対象とならなかったり、貸借対照表の内容が誤っている場合に適切な評価ができなかったりするというデメリットがあります。
マーケット・アプローチ
マーケット・アプローチとは、自社と類似する企業や事業をベースに株価を算出する方法です。対象会社の株価が基準となるため、客観的かつ公正な評価ができます。その一方で自社と類似している企業がないと、マーケット・アプローチによる株価の算出は難しいです。
インカム・アプローチ
インカム・アプローチとは、自社から将来期待される利益やキャッシュフローに基づいて株価を算出する方法です。インカム・アプローチでは、現在の企業の価値だけではなく、将来の成長まで見据えた評価ができます。ただし、評価に主観的な要素が織り込まれやすく、客観的な評価をしづらいという側面もあります。
まとめ:第三者割当増資を資金調達の選択肢として検討してみよう
第三者割当増資には、資金調達のしやすさや、返済不要であることなどの魅力があります。その一方で、他社に経営権を奪われたり、税負担が大きくなってしまったりするリスクもあります。これらを踏まえたうえで、第三者割当増資の活用を検討してみてください。