システム開発の契約不適合責任が追及される期間、瑕疵担保責任との違い
かつては、システム開発の請負契約において、成果物に瑕疵があった場合「瑕疵担保責任」が追及されていました。 しかし、2020年4月の民法改正によって、瑕疵担保責任が「契約不適合責任」へと変更されました。 今回の記事では、契約不適合責任の内容について言及します。
契約不適合責任が追及される期間
契約不適合責任が追及される期間ですが、以下のようになります。
- 契約不適合の事実を知った時から1年以内
- 契約不適合の事実を知り、提訴してから5年以内
- 成果物の引き渡しから10年以内
つまり、成果物の引き渡しから1年以内しか責任追及できなかった瑕疵担保責任と比較して、責任追及できる機関が大幅に延長したということです。
契約不適合責任と瑕疵担保責任の違い
瑕疵担保責任から契約不適合責任に変更されたことにより、知識をアップデートしておかないと、思わぬ不利益を被る可能性があります。 よって、それぞれの違いを知っておくことは非常に重要です。
債務者が責任を負う期間の起算点の違い
瑕疵担保責任において、債務者が責任を負う期間の起算点は、成果物の引き渡しから1年でした。 しかし、契約不適合責任では、債務者が責任を負う期間の起算点は、債権者が契約不適合に気づいた時から1年となります。 ちなみに、契約不適合責任において成果物の引き渡し時を起算点とした場合は、責任追及の時効は10年です。
損害賠償の請求範囲の違い
瑕疵担保責任から契約不適合責任に変更されたことにより、損害賠償の請求範囲が拡張されました。 従来の瑕疵担保責任では、損害賠償の請求範囲は信頼利益(契約が成立しなかった場合に、契約が成立すると信じたことによって被った損害)に限定されていましたが、契約不適合責任ではさらに履行利益(契約が履行されていれば得られたはずなのに、債務者が契約を履行しなかったことが原因で債権者が得られなかった利益)が追加されました。 これにより、債権者は損害賠償責任を追及される可能性が高くなりましたので、注意が必要です。
責任追及手段の選択肢の違い
瑕疵担保責任から契約不適合責任に変更されたことにより、責任追及手段の選択肢が増えました。 具体的には、従来の瑕疵担保責任では、「損害賠償」と「契約解除」のみでしたが、新たに「追完請求」と「報酬減額請求」が追加されました。 追完請求とは、納品され成果物に契約不適合があった場合に、成果物を契約に適合する状態にすることを請求することです。 報酬減額請求とは、契約不適合による損害の程度に応じて対価の減額を請求することです。
契約不適合責任を負うリスクを避けるために契約書に記載すべきこと
契約不適合責任は、追及される期間が長いため、納品から数年経っても不安がつきまといます。 そのような状態では、いつまで経っても落ち着かないでしょう。 よって、契約不適合責任を負うリスクは、あらかじめできるだけ避けたいものです。 そのためには、契約書の作成に注意を払う必要があります。 まず気をつけるべきことは、業務範囲をなるべく具体的に記載することです。 そうすることによって、契約において定められた範囲を逸脱するような請求を防ぐことができます。 続いて、契約不適合責任の追及期間の起算点も契約書に明記するようにしましょう。 なぜなら、「債権者が契約不適合に気づいた時」というのは、債権者がいかようにもできてしまい、それを債務者側が指摘することも困難だからです。 よって、契約書によって契約不適合責任の追及期間の起算点を「検収完了時」や「システム稼働時」という風に定めておくと良いでしょう。 あとは、損害賠償額の上限を決めることも大切です。 瑕疵担保責任から契約不適合責任に変更されたことにより、損害賠償の範囲が拡大したため、損害賠償額が莫大なものになる可能性が高くなりました。 債権者側の企業によっては受け入れられない可能性もありますが、できる限りこちらについても定めておきたいところです。
契約不適合責任が追及されないようなシステム開発を心がけましょう
そもそも、契約不適合責任が追及されるのは、契約不適合があった場合です。 よって、契約不適合がないようにすれば、契約不適合責任を追及されることは基本的にはありません。 もちろんそれは簡単なことではありませんが、心がけは大切です。 債務者側であるシステム開発業者は、瑕疵担保責任よりも大きなリスクを背負うことになりましたので、より一層トラブル防止に励む必要があります。 会社の利益を守るためにも、契約不適合責任のリスクをできるだけ避けましょう。