プラントエンジニアリングとは?ITや情報システムとの関係?DXやデジタ化で変貌中

プラントエンジニアリングという言葉をご存知でしょうか?

「プラント」という単語自体、ITや情報系エンジニアの皆様には、あまり縁の無い分野だと思うかもしれません。

プラントエンジニアリングは、プラントの企画や設計、調達、建設工事、施工管理、保守などの業務の総称です。

プラントという言葉で石油化学プラントなどを思い浮かべ、巨大な設備や機械が目に浮かびますが、ITや情報もプラントを支えるのに不可欠な役割を持っています。

今回は、プラントエンジニアリングを概説した後、ITや情報システムがプラントでどのような役割を果たすのか解説します。

また、DXやデジタル化により変貌しつつあるプラントエンジニアリング業界についても紹介します。

プラントエンジニアリングとは

プラントエンジニアリングとは、プラントの企画や設計、調達、建設工事、施工管理、保守などの業務の総称です。

工場内に設備を設置し、設備を使って製品が製造できるようにシステム化する役割を担います。

プラント建設は、数千人の人員が数年かけて取り組む巨大なプロジェクトです。

このため、このような巨大プロジェクトの推進に特化したプラントエンジニアリング会社がプラントの新規立ち上げを行います。

従来は、プラントエンジニアリング会社の守備範囲は
「プラントの新規立ち上げまで(EPC事業、後述)」
が多かったです。

しかし最近では、
・立ち上げ後の運用管理
・保守点検
など付加価値の高いサービス(プラントライフサイクルビジネス、後述)も行うプラントエンジニアリング会社も現れています。

プラントとは

英語のプラント(plant)には、「植物」のほかに「生産設備」や「大型機械」という意味があります。

建設業界では、プラントを「製造設備関連の構築物を含めた工場施設全体」のことを指します。

ニュースなどで耳にする機会の多いガスや石油、発電、製鉄などのプラントのほか、様々なプラントがあり
「産業系プラント」
「石油化学系プラント」
「環境系プラント」

に分類されます。

産業系プラントとは

食品や飲料品、医薬品、化学製品、金属、セメント、自動車などの生活に身近な製品を作っているプラントです。

産業系プラントを設計・建設する際は、
・生産性向上やコスト削減が実現できるように生産・出荷・情報システムを連携させる
・食品や飲料品、医薬品を製造するプラントでは衛生面にも配慮する
などの配慮が必要です。

石油化学系プラントとは

原油からガソリンや灯油、LPガス、ナフサなどを生成したり、プラスチックやナイロンなどの石油化学製品を製造したりするプラントです。

石油化学系プラントには、異常が原因で火災や爆発につながる危険があります。

石油化学系プラントを設計・建設する際は、安全基準を満たすのは勿論ですが、リスクを回避するシステムを構築することも重要です。

環境系プラントとは

食品廃棄物や廃プラスチック、廃タイヤ、廃家電、汚水などを処理して再資源化を図るプラントです。

最近では、焼却熱やバイオマスを利用した発電も行われています。

深刻化する環境問題に呼応して、ゴミ処理でもエネルギー効率向上や有害物質の抑制が叫ばれており、環境保全に寄与するプラントの建設が世界中で必要とされています。

プラントエンジニアリングEPC事業の業務内容

ここでは、プラントエンジニアリングとは何かを正しく理解するために、従来から行っているEPC事業の業務内容について見ていきましょう。

第1ステップは「企業化プラニング」で、現状調査、概念設計計画書の作成、マスタースケジュールの策定、予算の策定、経済性の評価を行います。

第2ステップは「基本設計」で、設計条件の確定、データ分析、技術提案、システムの基本設計、フローシート(製造系統図)作成、オフサイト設備の基本設計、総合工程表の作成を行います。

第3ステップは「詳細設計」で、プロセス機器の詳細設計、オフサイト設備の詳細設計、電気計装設計、配管設計、保温・保冷・塗装・防蝕の設計、官公庁申請図書の作成を行います。

第4ステップは「機材の調達」で、基本調達計画、発注先選定、契約・発注、購入品の工程管理と検査、納品管理を行います。

第5ステップは「建設工事」で、工事計画の策定、工程管理、安全管理、施工管理を行います。

また、必要に応じて仮設・安全対策・基礎・土木・建設・架橋・据付配管・電気・計装・保温などの工事も行います。

第6ステップは「試運転」で、試運転の準備、運転指導、試運転結果の分析、運転トラブルの原因究明と対策立案を行います。

計装とは、生産工程等を制御するために、測定装置や制御装置を装備し、測定することなどを言います。

計装では、生産設備や製造機器をコンピュータ制御して階層化・統合化された巨大なシステムを作ったり、工程管理などの様々な情報システムを組み込んだりします。

このように、プラントエンジニアリングは余りにも巨大なプロジェクトのため、情報系エンジニアが参加するのは第3ステップの詳細設計で行われる「電気計装設計」以降です。

変貌するプラントエンジニアリング会社

DXやデジタル化の大きな波により、プラントエンジニアリング会社はビジネスモデルが「EPC事業」から「プラントライフサイクルビジネス」へ変貌し、プラントエンジニアリング会社自身の業務もデジタル化されつつあります。

従来はEPC事業がビジネスの柱:コンピュータ制御や様々な情報システムで効率化

プラントエンジニアリング会社の従来のビジネスモデルは「EPC事業」と呼ばれています。

これは、前節の
「プラントエンジニアリングEPC事業の業務内容」
との関連で説明すれば、

・Eは設計(Engineering、前節の第2~3ステップ)
・Pは調達(Procurement、前節の第4ステップ)
・Cは建設(Construction、前節の第5ステップ)
となります。

EPC事業では、プラントエンジニアリング会社が付加価値を生むのはプラントの設計・調達・建設とプロジェクトマネジメントです。

プロジェクトは、進行に合わせて様々な分野の協力会社に参画してもらい進捗させます。

例えば石油系科学プラントを新設する場合には、コンサルティング会社・総合商社・金融会社・保険会社・エンジニアリング会社・ライセンサー・設計子会社・ベンダー・運輸会社などが参加してもらいます。

IT関係者はベンダーとして参加します。

第1ステップの鍵は提案力:最小コストで最大限の利潤を生む企画の提案

プラントエンジニアリング会社がプロジェクトの受注に成功するための最初の鍵は、プラントエンジニアリング会社の提案力です。

顧客の投資目的は最小のコストで最大限の利益を上げることですが、技術的な実現性を考慮した上でこの投資目的に沿ったプロジェクトを提案できることが、第1ステップをクリアするのに不可欠です。

この段階でプラントのキャパシティや設備構成などが決定され概念設計計画書が作られます。

第2ステップの基本設計で受注/失注が決まる:事業コストの60~70%も決まる

概念設計計画書に沿って、プラント基本設計を行いますが、これにより事業コストの60~70%が決まるとされています。

この段階の成果物として技術仕様書が作られます。

技術仕様書の完成に続いて、EPCプロジェクト(設計・調達・建設)遂行時の見積もりを顧客に提出しますが、必要なコストを最小化して受注競争に勝ち抜く必要があります。

受注競争に勝ち抜くためは、プラント設備そのものも大切ですが、電気計装に関する提案力も極めて大切です。

これは、人間の体に例えれば「プラント設備は肉体や臓器」で、電気計装は「神経系」に相当するからで、両者がうまく調和することが極めて大事です。

第3~5ステップ:プラントを作りIT化する(EPC事業の核心部)

ここでは「詳細設計」「機材の調達」「建設工事」を行います。

各ステップの詳細はプラントの種類によって異なりますが、ここがプラントエンジニアリング会社のEPC事業の核心部で、利益の源泉です。

電気計装がなければプラントは単なる鉄の塊(様々な設備や装置を組み合わせただけのもの)でしかありません。

プラント発注者に価値をもたらすのは神経系を備えた頑健な肉体で、「IT×インフラ」と言い換えることもできます。

従来は、工場やプラントを支える産業機械をコンピュータコントロールして、「少ない作業員で、一定の品質もった製品を計画したスケジュール通りに作る」ことが行われました。

具体的には、工程管理システム・生産管理システム・在庫管理システム・購買管理システム・出荷管理システム・原価計算システムなどが導入され、さらに入力を省力化するためにバーコードなどが導入されました。

このような流れの中で、シャストインタイムという生産方式も生まれました。

これは、製造工程で「必要なものを必要な時に必要なだけ作る」生産方式です。

この方式は、トヨタが自動車の生産で使われ始めたものですが、今では様々な製品の製造工程で使われており、物流にも応用されています。

プラントライフサイクルビジネスに向けて脱却中:DXやデジタル化で

今では、プラントエンジニアリング会社にはプラントのDX(ディジタルトランスフォーメーション)を推進する役割も求められています。

このようなニーズに応えることで、プラントエンジニアリング会社は、従来のEPC(設計・調達・建設)事業からO&M(運用管理および保守点検)、生産性改善などを含むプラントライフサイクルビジネスに変貌しつつあります。

プラントの運転管理をDX:AIやデジタル技術で

プラントの運転管理にAIやデジタル技術を取り入れることで、プラントの予防保全や運転の効率化が図れるサービスの提供も求められているのです。

具体的には、工場やプラントを支える産業機械には、納入後の安定した稼働を実現しダウンタイム(運転停止時間)を極力低減することが求められます。

このために、予防保全による異常発生の抑制や異常の早期検出と迅速な復旧対応が求められるのです。

プラントDXの事例

最初に紹介するのは「AI解析でプラントの運転や保全を支援」するサービスの例です。

これは、東洋エンジニアリングが提供している「DX-PLANT」サービスに関するものです。

顧客の尿素プラントを監視・運転・保全するサービスで、海外の複数のプラントを対象に同社の事務所のモニタリングルームから、専門家が遠隔で行うものです。

このサービスにより、顧客プラントの生産性向上が実現しており、現在は尿素以外のプラントへの展開を目指しています。

もう一つの事例はガスタービン発電機の遠隔保守に関するものです。

ガスタービン発電機などでは長期保守契約を結び、ガスタービンの状態を遠隔監視することは従来から行われてきました。

三菱パワーの「TOMONI」は従来のサービスに加え、「AI解析を活用した運転保守の最適化と性能向上、運用改善」などの新サービスを提供しています

デジタル化でプラントエンジニアリング業務自体も変革中

プラントエンジニアリング会社自身の行う建設工事にもデジタル化の波が押し寄せています。

通常、建設工事現場ではワークパッケージを取り入れた管理がなされています。

ワークパッケージとは、プロジェクトの工程を階層的に小さな単位に分解したWBS(Work Breakdown Structure)において、管理する意味のある最小単位にまで細分化された作業群を指します。

建設現場では、工事予定日当日の設計変更や施工済みの場所のやり直しなどが日常的に発生しています。

これが、建設工事の生産性を高めることが出来ない要因の一つになっており、エネルギープラントなど規模が大きなプロジェクトほど、このような問題が発生しやすいです。

最近、注目されているAWP(アドバンス・ワーク・パッケージ)では、
・工事に合わせて設計・調達を行う
・工事のワークパッケージのメッシュを細分化する
・全体として整合性の高い順序で施工が進むようコントロールする
ことが行われます。

この中の「全体として整合性の高い順序・・・コントロールする」はデジタル化に適した部分です。

具体的には、工事現場ではRFIDタグやドローンによる資機材の管理や、作業員の管理のデジタル化も行われます。

従来は図面を抱えて現場を走り回っていたが、今ではタブレットで図面確認を行うのが普通です。

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今回は、プラントエンジニアリングについて説明してきました。

聞き慣れないという人も多いとは思いますが、多くの人が関わる重要な仕事です。

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