事業経営に必要な運転資金とは?具体的な種類や内訳、調達方法などを解説

運転資金の確保は、事業を継続する上で必須です。そのため、自己資金の調達方法について知っておき、運転資金をいつでも確保できる状態にしておくことが望ましいです。また、運転資金の種類や用途別に金額を把握することも重要です。この記事では、運転資金に関するさまざまな疑問について解説します。

運転資金とは

運転資金とは、事業経営のために必要なお金です。運転資金にはさまざまな種類があり、それぞれ用途が異なります。この運転資金がショートすると事業の継続ができなくなってしまうため、必要な金額の把握や資金の確保が必要です。

運転資金の5つの種類

運転資金の種類は、以下のとおりです。

  1. 経常運転資金
  2. 増加運転資金
  3. 減少運転資金
  4. 季節性運転資金
  5. 赤字補填資金

では、それぞれについて解説します。

1.経常運転資金

経常運転資金とは、現状と同じ状態で経営をするために必要なお金のことです。基本的に運転資金というと、この経常運転資金のことを指します。経常運転資金には、仕入れ費用や人件費など、恒常的に発生する費用が該当します。

経常運転資金の算出式は、以下のとおりです。

売掛金+棚卸資産⁻買掛金=経常運転資金

それぞれの項目の意味は、以下のとおりです。

  • 売掛金:商品・サービスの提供が済んでいてまだ回収していない代金
  • 棚卸資産:いわゆる在庫
  • 買掛金:仕入れや外注費などのうちまだ支払っていない代金

2.増加運転資金

増加運転資金とは、売上が増加して事業を大きくする際に必要なお金です。なぜ増加運転資金が必要になるのかというと、売上が発生してから実際に入金されるまでにはタイムラグがあり、その間をつなぐためのお金が必要であるためです。事業を拡大する際には、これまでより大きな仕入れコストや人件費などがかかるため、増加運転資金がないと資金がショートしてしまう恐れがあります。増加運転資金は、ある程度将来の売上や利益が見込まれている状態で必要になるものであるため、比較的金融機関などからの借り入れがしやすいです。

3.減少運転資金

減少運転資金とは、売上が下がって事業を縮小する際にかかるお金です。なぜ減少運転資金が必要になるのかというと、売上が下がっても店舗の家賃や人件費などの支払金額は変わらないため、そのギャップを埋める必要があるためです。また、店舗の閉鎖など経費削減のためにかかる費用もあります。

4.季節性運転資金

季節性運転資金とは、毎年特定の時期に追加で必要になるお金のことです。例えば、クリスマスシーズンに需要が増加する商品の仕入れ費用や、従業員に支払う賞与などが挙げられます。この季節性運転資金を確保することで、商品への需要が高まる時期に充分な在庫を抱えることができ、機会損失を逃しにくくなります。そのため、毎年需要が増加する時期が明確になっている商品がある場合は、季節性運転資金を確保しておくことが望ましいです。

5.赤字補填資金

赤字補填運転資金とは、文字どおり赤字をうめあわせためのお金です。なぜ赤字補填運転資金が必要になるのかというと、赤字が継続することによって金融機関からの自社に対する評価が下がり、借入の金利が引き上げられる可能性があるためです。そこで、より資金繰りが悪化しないようにするのが、赤字補填運転資金の役割です。

運転資金の内訳

運転資金の内訳には「固定費」と「変動費」があります。固定費とは売り上げに関係なく発生する費用で、変動費とは売上に比例して増減する費用のことです。では、それぞれの具体例を挙げます。

固定費の例

  • 事務所や店舗などの家賃
  • 管理費
  • 人件費
  • 広告費
  • 保険料
  • 減価償却費

変動費の例

  • 材料費
  • 仕入費
  • 運賃
  • 消耗品費
  • 外注費

運転資金と設備資金の違い

運転資金と似たものに「設備資金」がありますが、これらは異なるものです。具体的には、運転資金が経常的に必要になるものであるのに対し、設備資金は設備の導入の一時的に必要になるお金のことを指します。設備資金の例として、以下のものが挙げられます。

  • 車両の購入費用
  • 不動産の購入費用
  • 工場機械の導入費用
  • 電子機器の購入費用
  • Webサイトの構築費用

運転資金が不足する原因

運転資金の不足を防ぐためには、まずその原因を把握する必要があります。運転資金が不足する原因は、以下のとおりです。

  1. 会社の収支の把握が不十分
  2. 売上債権を抱えすぎている
  3. 在庫管理が不十分
  4. 仕入債務管理が不十分
  5. 売上の変動
  6. 短期間での大きな支出

では、それぞれについて解説します。

1.会社の収支の把握が不十分

会社の収支の把握が充分にできていないと、収入よりも支出が上回ってしまい、運転資金が不足する恐れがあります。そのため、会社の収支はきちんと把握しましょう。

会社の収支を把握する方法としては、Excelなどを使って資金繰り表を作成し活用することがおすすめです。資金繰り表を活用することで、資金の流れを可視化し、収支を正確に把握できるようになります。資金繰り表のテンプレートはインターネット検索で見つかるため、ぜひ探してみてください。

2.売上債権を抱えすぎている

売上債権は収支ではプラスに該当しますが、実際に手元に売上が入金されているわけではありません。そのため、売上債権を抱えすぎていると、収支が良い割には資金繰りが苦しくなることがあります。もし売上債権を多く抱えている場合は、支払い条件を売掛先任せに支払いが先送りになっていないか、請求漏れがないかなどを確認してみましょう。また、売掛先の支払い遅延があった場合は、いつ支払われるのかを明確にしましょう。

3.在庫管理が不十分

在庫管理が不十分であることも、運転資金が不足する原因の一つです。なぜなら、在庫があまりにも多すぎることということは、売上に対して仕入金額が大きすぎるということであるためです。そのため在庫が過剰に溜まっている場合は、在庫を対象としたセールを開催したり、今後の仕入れの量を見直したりしましょう。

4.仕入債務管理が不十分

仕入債務管理が不十分だと、予想外に大きな支出が発生する可能性があります。特に翌月の支払金額を把握していなかったり、支払い遅れを仕入先から指摘されたりしたことがある場合は要注意です。

5.売上の変動

売上は減少するだけではなく、増加によっても運転資金が不足する可能性があります。それは、増加運転資金のところでも解説したとおりです。

6.短期間での大きな支出

短期間での大きな支出も、運転資金不足の原因の一つです。例えば、従業員への賞与の支払いや、商品の不良によるリコールなどが原因として挙げられます。

必要な運転資金の計算方法

必要な運転資金を正確に把握するためには、計算方法を知っておくことが重要です。運転資金の計算方法は、以下のとおりです。

運転資金=売上債権+棚卸資産-仕入債務

運転資金を計算するためには、これらの項目の金額の把握が必要です。例えば、売掛債権が500万円、棚卸資産が300万円、仕入債務が400万円だったとしましょう。この場合、先述の式にあてはめて計算すると運転資金は400万円となります。もし算出された運転資金の金額でも事業を継続する上で不足があれば調達する必要があります。また、売掛債権はまだ手元に入金がされていない金額を表すため、つなぎに必要な資金の金額も把握できます。

必要な運転資金の目安

必要な運転資金の目安は、業種や事業の形態などによって異なります。例えば、飲食業の場合は仕入れから資金回収までの期間が短いため、運転資金は少なくて済みます。その一方で不動産業界の場合は、投資資金の回収まで1年近くかかることもあるため、必要な運転資金は多額になります。平均的には、3~6か月分の運転資金があれば安心です。

運転資金の調達方法

運転資金の調達方法は、以下のとおりです。

  1. 日本政策金融公庫からの融資
  2. 民間の金融機関からの融資
  3. ビジネスローン
  4. ファクタリング
  5. 補助金・助成金
  6. 親戚や知人などからの借り入れ

では、それぞれについて解説します。

1.日本政策金融公庫からの融資

日本政策金融公庫とは、政府が100出資する金融機関です。日本政策金融公庫は運転資金の融資以外にも、災害復興や新型コロナウイルス感染症対策のための融資制度も設けています。

日本政策金融公庫のメリットは、比較的低金利であること、条件を満たせば無担保・無保証人で3,000万円まで融資を受けられることです。また、事業計画と返済計画さえしっかりしていれば審査に通りやすくなるため、民間の金融機関に融資を断られた場合でもチャンスがあります。その一方で、申込から融資実行までに2ヵ月程度かかることがあるため、資金調達に緊急性がある場合は利用が難しいです。
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2.民間の金融機関からの融資

民間の金融機関には、都市銀行や地方銀行、信用金庫、信用組合などがあります。これらの期間も運転資金の融資を実施しており、また金融機関ごとにさまざまなサービスを提供しているため、目的に合ったものを選べます。

民間の金融機関からの融資は、大きく「一般の事業性融資」と「不動産担保ローン」の2種類に分けられます。

一般の事業性融資は、比較的金利が低く、かつ一度審査に通れば継続的に取引できる制度です。ただし審査は厳しめで、審査期間も1~3ヵ月程度と長めです。

不動産担保ローンは、文字通り不動産を担保に入れて融資を受ける方式のローンです。審査スピードは速く、申込から融資実行まで数週間から1カ月程度で完了します。ただし、利用者が原則として不動産の所有者に限られることや、融資限度額が不動産の担保価値に依存することなどがデメリットです。

3.ビジネスローン

ビジネスローンは、ノンバンクが提供する事業性ローンです。ビジネスローンによっては、審査期間即日となっていることもあるため、素早い資金調達が可能です。

ただしビジネスローンは、他の借入方法と比べると金利が高い傾向があります。またビジネスローンを利用することで、銀行からの評価が悪化して今後の借入が難しくなる恐れがあります。なぜならビジネスローンを利用せざるを得ないということは、それだけ財務状況が逼迫していると捉えられてしまい、融資を渋られてしまうためです。ビジネスローンを利用する際は、このようなリスクがあることも頭に入れておきましょう。

4.ファクタリング

ファクタリングとは、売掛債権をファクタリング業者に売却して資金を現金化する資金調達方法です。ファクタリングはあくまで売掛先の信用情報を見るため、自社の財務状況は問われません。そのため、赤字経営状態になっていても利用できる可能性があります。

またファクタリング業者によっては、即日の現金化が可能です。そのため、すぐに資金が必要な場合にも役立ちます。そして「2社間ファクタリング」であれば、売掛先にファクタリングを利用したことがバレず、関係が悪化することがありません。

ただしファクタリングは、手数料が高めです。したがって、無計画に多用してしまうと資金繰りを圧迫する恐れがあります。また、中にはファクタリング業者を装った高利貸しも存在するため、ファクタリング業者を選ぶ際は安心できる大手を選びましょう。

5.補助金・助成金

国や自治体は、数多くの補助金や助成金を用意しています。その種類は数千あるとも言われているため、自社にとって有利なものを探してみましょう。特に現在では、先端技術の開発に関わる事業や、新型コロナウイルス感染症の影響を受けている事業に対する補助金・助成金が充実しています。

補助金・助成金のメリットは、返済の必要がないことです。そのため、将来の返済計画に悩まされることがありません。その一方で、必要書類についてかなり詳細な資料を要求されることや、審査期間が3~6カ月と非常に長いことがデメリットとして挙げられます。

6.親戚や知人などからの借り入れ

どうしても他の資金調達手段が上手くいかなかったときの選択肢として、親戚や知人から資金を借り入れるという方法があります。この方法のメリットは、金利や返済期間について融通が利かせられることです。その一方で、返済計画が曖昧になったり、返済が滞ることによって人間関係が悪化したりするなどのデメリットがあります。親戚や知人から資金を借り入れ要る場合も、きちんと返済内容について書面で取り決めておきましょう。

運転資金が調達できないときの対策

運転資金が調達できなかった場合、別の方法で事業を守る必要があります。その方法は、以下のとおりです。

  1. 運転資金自体を少なくする
  2. サービスや商品の価格を上げる
  3. 売上債権と買入債務の期間を見直す
  4. 不良在庫を削減する
  5. 固定費を見直す
  6. 未回収債権を整理する
  7. 返済計画を見直す

では、それぞれについて解説します。

1.運転資金自体を少なくする

運転資金の調達ができない場合は、運転資金そのものを少なくできないか試みてみましょう。例えば、以下のような改善策があります。

  • 宣伝広告費が高い:これらは利益の中から賄うものなので、資金繰りが厳しい場合は減らす
  • 売れ行きの悪い商品がある:発注を減らすか、思い切って取扱いをやめる
  • 外注コストが大きい:ノウハウを蓄積するためにも外注していたことを自社でやってみる

これらの他にも削減できるコストはあるはずであるため、ぜひ探してみましょう。

2.サービスや商品の価格を上げる

サービスや商品の価格を上げ、利益率向上を試みるのも一つの選択肢です。ただし、価格を上げることはそう簡単ではありません。なぜなら価格を上げることによって、顧客が離れてしまったり、販売数減によって大幅に売上が減ってしまったりする可能性があるためです。したがって、価格上げは慎重に行いましょう。

3.売上債権と買入債務の期間を見直す

売上債権と買入債務の期間を見直しも、資金繰りの改善に有効です。売上債権の回収期間を短縮し、買入債務の支払いまでの期限を延ばせれば、資金がショートする可能性が低くなります。ただし取引先との交渉が必要であり、上手くいかなければ取引継続ができなくなる可能性があるため、要注意です。

4.不良在庫を削減する

不良在庫をセールなどで処分することで、一時的に資金繰りの状態を良くできる可能性があります。在庫のまま放置しておいても売上にならないため、早めに処分してしまいましょう。

5.固定費を見直す

固定費は、月々の収支を圧迫します。逆に言えば、不要な資金を削減することで資金繰りの改善が期待できます。例えば、借りている物件が大きすぎるのであれば、より小さい物件に移転することなどが有効です。ただし固定費削減の手段によっては、それ自体にコストがかかってしまうことがあるため要注意です。

6.未回収債権を整理する

売掛債権の管理が十分にできていない場合、未回収債権が残っている可能性があります。もし未回収債権を見つけたら、売掛先に支払いを催促しましょう。ただしあまりにも未回収の期間が長い場合、法的な手続きを取る必要があり、手間がかかります。

7.返済計画を見直す

もし他の手段でも運転資金の問題が解決しなければ、金融機関に返済の猶予や期間引き延ばしなど、返済計画の見直しをお願いしてみましょう。ただしこの方法は、金融機関からの信用低下のリスクや、経営改善計画書提出の手間がかかります。そのため、あくまで最後の手段として考えておきましょう。

資金調達のサポートはAMELAまで

運転資金が不足してしまった場合、事業の継続が難しくなってしまいます。そのため、運転資金の確保は先手を打って行いましょう。また、資金調達が上手くいかなくても、今回ご紹介した方法を実施してみてください。

また、AMELAは資金調達でお悩みの企業様のサポートも承っております。これまでの実績を活かしてお力添えさせていただきますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。